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母指MP関節靭帯損傷

母指MP関節靭帯損傷とは?

親指(母指)をついたり引っ掛けたりした際にグニャと曲がってしまい、第2関節(MP関節)の靭帯が損傷します。

靭帯は内側(尺側側副靭帯)と外側(橈側側副靭帯)にそれぞれあり、曲がる方向により損傷する靭帯が異なります。

(右)親指が外側に曲がると内側の靭帯(尺側側副靭帯)が損傷します。

靭帯が緩むと、ものをつまんだ際の痛み・力の入りづらさが残ります。

日本手外科学会 手外科シリーズ 24.母指MP関節靭帯損傷から引用

尺側側副靭帯損傷・Stener lesionの診断と治療

レントゲンでは靭帯は写らないため、ストレス撮影(負荷をかけて、どれくらい緩み(不安定性)があるかをチェック)により不安定性を評価します。

ストレス撮影を見ると、靭帯断裂では、緩みが大きくなります。

また、MRI、エコーも診断に有用です。

治療

断裂していても緩みが少ない、または不全断裂の場合には、保存治療(3週間程度のギプス固定)を行います。

多くは靭帯の治癒が見込めます。

緩みが大きいと、断裂した靭帯はめくれて引っかかってしまいます(Stener lesion)。

そうなると靭帯の治癒は見込めず緩さが残ってしまうため、Stener lesionでは手術が必要となります。

Stener lesionの模式図

大きく曲がってしまうと、断裂した靭帯がめくれたまま母指内転筋に引っかかってしまいます。

尺側側副靭帯損傷・Stener lesionの手術

新鮮例(受傷後2~3週以内)では、断裂した靭帯を縫合します。

受傷から時間が経過すると(陳旧例)、緩んだ靭帯は劣化し、消失してしまうこともあります。

そのため、陳旧例では再建手術が必要となります。

右の新鮮例と陳旧例のMRIを見ると、陳旧例では靭帯が消失しています。

靭帯縫合手術

アンカー(靭帯を骨に縫いつけるアイテム)を使用して、断裂した靭帯を修復します。

アンカーには、レントゲンで写るメタルタイプ(金属)と写らないノンメタルタイプ(非金属)があります。

最近は、ノンメタルタイプを使用することが多くなっています。

  • 麻酔:伝達(片腕)麻酔を行います。
  • 手術時間:30~40分です。
  • 手術後の経過:手術後2~3週程度のギプス固定をします。ギプス除去後より徐々に動かすようにし、手術後6~12週でスポーツ復帰可能となります。アンカーは抜去不要です。

靭帯再建手術

骨にトンネル(骨孔)をつくり、移植した腱(長掌筋腱という無くても支障のない腱を採取)をトンネル内に通して靭帯を再建します。

  • 麻酔:伝達(片腕)麻酔を行います。
  • 手術時間:90分です。
  • 手術後の経過:手術後4週程度のギプス固定をします。ギプス除去後より徐々に動かすようにし、手術後12週程度でスポーツ復帰可能となります。

橈側側副靭帯損傷

橈側側副靭帯が断裂すると、尺側側副靭帯の断裂よりも不安定性が強くなります。

レントゲンで亜脱臼を呈することもあります。

橈側側副靭帯断裂では、通常撮影(非ストレス)のレントゲンで亜脱臼していることがあります。

手術について

亜脱臼している、または不安定性が大きい場合には手術を行います。

手術の方法は、尺側側副靭帯の場合と同様です。

右の陳旧例に対する靭帯再建手術例では、亜脱臼は改善し、再発もしていません。

母指MP関節側副靭帯の剥離骨折

靭帯そのものではなく、靭帯の付着部で骨ごと剥がれてしまう場合もあります(剥離骨折)。

不安定性は少ないですが、骨がつかない(偽関節)と痛みが残ることがあります。

そのため、転位(ズレ)が大きい場合には手術が考慮されます。

日本手外科学会 手外科シリーズ 24.母指MP関節靭帯損傷から引用

剥離骨折に対する鋼線固定

手術後3ヶ月で骨癒合しています。

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